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第152話 ありがとうございました

Author: Sunny
last update publish date: 2026-07-12 19:05:15

優は、手元の書類ケースを閉じた。

『綾香』

その声は、少しだけ低くなった。

『医療関連のプロジェクトで、少し進捗があった』

仕事の声に変わる。

東郷優という弁護士の声。

『前に話していた契約の件を進めたい。今、少し時間をもらえる?』

あくまで仕事だった。

その言い方は真摯で、無駄がない。

加瀬さんの前でも。

太一くんの前でも。

美香の前でも。

私情ではなく、必要な話として成立していた。

断れない。

そう思った瞬間、自分でその考えを止める。

断れないのではない。

私は、断ることもできる。

でも。

この案件は、私にも関係がある。

医療関連のプロジェクト。

契約。

前に確認すべきだと思っていた話。

ここで変に意識して断れば、加瀬さんにも、太一くんにも、美香にも、余計な気を遣わせる。

それに、仕事として聞くべき内容なら、私情だけで避けるのも違う。

私は、どうしたいのか。

怖い。

でも、聞く必要はある。

距離を間違えないまま、必要な話だけをする。

それが今の私の判断だった。

『……分かった』

私が答えると、優は少しだけ頷いた。

表情は大きく変わらない。

でも、目元がほんのわずかに緩んだ気がした
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